2013年11月25日月曜日

スタートアップを構成する為の最小チームはハッカー(開発担当)、ヒップスター(デザイン担当)、そしてハスラー(ビジネス担当)

ベンチャー企業とスタートアップの違い

「スタートアップという単語をよく聞くのですが、ベンチャー企業の事ですか?」と尋ねられる事が多い。最近でこそイベントやメディア等にて”スタートアップ関連のXX”の名称で少しずつ使われている呼び名ではあるが、日本ではスタートアップの本来の意味がイマイチ浸透していない。 純粋に新しく出来た会社をスタートアップと呼ぶべきか? それとも、理論的に設立6年以内で従業員50人以下の比較的歴史の浅く小規模な会社を総称するのが良いのか? もしそうであれば、その場合は恐らく日本語でいうところの”ベンチャー企業”とほぼ同じ定義のように思われる。
しかし、実はアメリカで”Startup”と呼ばれるかどうかは、会社の設立年数や規模はあまり関係無い。むしろどんな事をやっているかや、どんなチームで構成されているかを中心に、その存在目的や組織の構成、成長スピード、収益方法、目指すゴール等の内容において一部の特殊なタイプのものをスタートアップ (Startup) と呼ばれる。それ以外の新しい、もしくは小さな会社は単純に中小企業 (スモールビジネス) と認識される。
そして日本でのいわゆるベンチャー企業のそのほとんどはスタートアップというよりもむしろ上記のスモールビジネスに近い。それ故に日本で純粋な意味での”スタートアップ”は非常に少ないと思う。では、スタートアップを構成する幾つかの特殊要素を挙げ、新規企業の総称であるベンチャーとの違いを考えてみたい。

ベンチャー企業 vs スタートアップ

そもそも”ベンチャー企業”という単語は日本人が作った和製英語で、通常英語で”Venture”と言うとVenture Capital (VC) など投資をする企業や人を指す。よく英語でのピッチの際に”We are a venture company”と紹介している方を見るが、おおよそ理解してもらえてないだろう。ちなみに英語で”venture-backed company”という表現があるが、これは”VCから投資を受けている会社”の意味である。
恐らく日本では新しく出来た小さな会社を総称してベンチャー企業と呼ぶ。しかし、アメリカではその存在目的や組織の構成、成長スピードを主なファクターとしてスタートアップと見なされるか、中小企業と認識されるかが変わってくる。

スタートアップとは?

スタートアップを一言で表現すると、“新しいビジネスモデルを開発しごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う事で一攫千金を狙う人々の一時的な集合体”である。これは、市場においてある程度受け入れられると確信が得られたビジネスモデルを適用して事業展開を行う事で、日々の安定した収益と長期成長を目指すスモールビジネス的ベンチャー企業と比べても大きな違いがある。

存在意義

起業家がスタートアップを立ち上げる理由として最も多いのが、“今までに無いイノベーションを通じ人々の生活と世の中を変える事”である。ここで重要になるのがスタートアップにはイノベーションが必ず必要で、既に存在する他の会社が提供している商品やサービスと同じ内容のビジネス展開を目指すだけのスタートアップはほぼ存在しないという点。どんなに若く勢いのある会社でも、イノベーションと社会貢献を存在意義としていないベンチャー企業はスタートアップではなく中小企業に近い。ちなみに、スタートアップにおけるイノベーションの重要性はこちらの500 StartupsのGeorge Kellermanのスピーチでも説明されている。

組織形態

スタートアップの最も特異な点はその組織形態であろう。立ち上げスタッフはファウンダーと呼ばれ、その他のスタッフも合わせてチームと呼ばれる。実は彼らの中には既存の企業で必要とされる、いわゆる”組織”やシステム、そしてプロセスは存在しない。チーム全体が一丸となって急激なスピードで物事を進めるため、全員が攻めに徹する“完全ぶっこみ型カミカゼチーム”が構成される。実は立ち上げ後しばらくの期間は法人登記すらしていないケースも珍しく無く、それでもメンバーさえ揃っていれば立派にスタートアップと呼ばれる。
ファウンダー含めメンバーの多くが未熟な若者だけで構成される為、勢いはあるが、長期戦に耐えられないケースが多い。そして、おおよそ彼らは社内教育制度の全く無い、能力勝負に偏った”即席”チームであり、短時間のうちのその形態が大きく変化する事も少なく無い。従って、即戦力になる人間しかスタートアップは採用しない。この辺は長期的な成長を目標にバランスの取れた組織とスタッフの成長、無理の無い社内プロセスを重視する中小企業とはかなり違いがある。
ちなみに最近のスタートアップを構成する為の最小チームはハッカー(開発担当)ヒップスター(デザイン担当)、そしてハスラー(ビジネス担当)とされ、そのチームメンバーのクオリティーがVC等からの資金調達を行う際の大きな判断材料となる。

ビジネスモデル

そしてビジネスモデルであるが、そもそもスタートアップには最初からしっかりとしたビジネスモデルがある事はほぼ無いと言ってよいだろう。むしろ、スタートアップにとっての一番最初の仕事はビジネスモデルを見つける事に他ならない。既存のビジネスモデルをベースに展開する中小企業的ベンチャーと比較すると、レシピに沿って美味しい料理を作る vs 新しいレシピを考案する、ぐらいの違いがある。
スタートアップのファウンダー達は思いつきとも言える複数のアイディアから、もしかしたら当たるかもしれないと思われるものを採用し、資金調達をし、プロダクトを作成してみて市場の反応を見ながらダメそうだったらすぐに方向転換(ピボット)を行い最適なビジネスモデルを模索しつづける。そして多くの場合、鳴かず飛ばずで終わり、最悪の場合チームが解体される事も少なく無い。実にスタートアップの約90%が失敗する理由である。ある程度日銭を稼ぐ事ができる目処が付いている事の多い日本のベンチャー企業と比べてもかなり極端な違いである。

収益モデル

上記の通り、ビジネスモデルが確定していないスタートアップはもちろん日々の収益の目処がたたない。多くの場合はしばらくのあいだ日銭が稼げないため、立ち上げ時に外部の投資家から当座の資金を調達し、ビジネスモデルを模索する。その後方向性が定まった時点で2度目、3度目の資金調達を繰り返し、最終的なエクジットを目指す。
スタートアップは最終的にIPOやバイアウト等を通じ大きなリターンを収益モデルとして狙うため、それまで売り上げがゼロであるケースも少なく無い。投資する側から見ても、最も重要なのはエクジットプランとその規模であるため、それまでの売り上げに対してはあまり気にしない場合が多い。
この辺も日本のベンチャーは日銭が稼げないとなかなか続けさせてもらえないので、スタートアップ型のビジネスを続けて行くのが困難な要因である。エクジットの規模が比較的小さな日本市場ではベンチャー企業といえどもスタートアップ的展開が難しくなる。一方でアメリカの場合はGoogleやFacebookに代表されるような大きなリターンを達成したスタートアップが多く存在するので、エクジット時の一攫千金を狙った投資及びビジネス展開が可能になっている。
参考資料: スタートアップの定番収益モデル例: startup-finance

成長スピード

そして最後にスタートアップがスタートアップである為の最も重要なポイントがその成長スピードである。通常の企業が毎年数十パーセントの成長を目指すのに対し、スタートアップはエクジットプランを含め短期間での急激な成長が求められる。そしてチームは上記で説明したようにアンバランスな組織形態のまま突っ走る。スタッフ全員がなりふり構わず会社の成長だけを目指し我を忘れて突っ走る事が出来るため、急激なスピードでの成長を期待する事が可能である。
長期的な会社の体力と収益化を目指す中小企業と比べてみると、打ち上げだけにフォーカスした使い切り型ロケット複数回の再利用を目指すスペースシャトルとの違いといったところだろうか。ちなみに、去年Facebookに10億ドルで買収されたInstragramも実に買収当時でもチームの人数は10人ほどであった。
大きな資金調達をし、組織もかなり大きくなったGitHub社のCEOのTom Preston Werner氏は “あなたたちは本当にスタートアップなの?”の問いに対して下記の様に答えている。
スタートアップには色々な定義があるけれど、例えばポール・グレアムはこう言ってる。「めちゃくちゃな勢いで成長するのがスタートアップだ。」ってね。だからGithubもスタートアップだ。

スタートアップはクールでベンチャー企業はダサい?

上記のポイントだけを見ると、どうしてもスタートアップはクールでエキサイティングだが、ベンチャーはなんだかダサくてつまらなさそう、と思われがちである。しかし、それぞれの存在意義や目的が異なるため一概に言うのは難しいだろう。我がbtrax社もスタートアップ的勢いと面白さプラス、ベンチャー的安定感と組織作りを進めていきたいと思う。さて、あなたの会社はベンチャー企業?それともスタートアップ?

0 件のコメント:

コメントを投稿