2013年6月15日土曜日

目的工学は、組織メンバー全体を一体化するための方法論である

新刊書【書評】『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』紺野 登、目的工学研究所/著

本書は「企業の究極の目的とは何か?」という問いを切り口に、目的工学(パーパス・エンジニアリング)というマネジメント手法から経営を考える一冊です。

「利益」だけではない「目的(パーパス)」を目指した企業や、経営者の事例が読みやすい文章で数多く紹介されており、「大目的」、「小目的」と「目標」の違い、なぜ我々は「目標」にとらわれてしまうのか、など非常に興味深い内容が多い本でした。

現在、英「エコノミスト」誌が2013年のビジネス・トレンドの1つにあげたように、「from profit to purpose(利益から目的へ)」という考え方が大きな影響力を持ち始めているといいます。

日本でも利益の追求を第一義としない、社会起業(社会課題をビジネスの手法で解決する)という言葉を聞く機会が如実に増えてきた印象があります。

本書では、これら社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)の多くは、「目的(パーパス)」に目覚めた人たちであると指摘しています。

では、なぜいま企業の「目的」に注目が集まっているのでしょうか?
なぜ今、「目的」が重要なのか

企業の社会的意義を重要視する考えは、ドラッカーや、松下幸之助氏の「企業は社会の公器である」という言葉、または江戸時代からの近江商人の「三方よし」の教えなど、昔から存在しています。

「企業は(そして公共機関も)社会の一部である。その存在理由は、自分たちの利益のためではなく、社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである」 ドラッカー「マネジメント」より

しかし、グローバル化が究極的に進んでいる現在ほど、社会において企業の影響力が、政治や国民生活、さらには地球資源そのものにまで及ぶようになった時代はありません。

これが今こそ「目的」が重要となっている理由です。本書で述べられているように、企業はもはや「経済機関」ではなく「社会機関」になっているのです。
「目的工学」とは何か

では、目的工学はそのような時代にどのように経営に役立つのでしょうか、

「目的工学は、組織メンバー全体を一体化するための方法論である」

と本書では述べられています。

どういうことかというと、基本的には企業の「目的」は、「企業理念」や「ビジョン」などの形で、既にまとめられていることが多いですよね。

しかし、それらがお題目で終わってしまう、つまり組織に浸透せず、実行されず終わってしまうことが多々あります。私自身も経験がありますし、みなさんもご存じの通りだと思います。

目的工学では、その最大の原因を「大目的の不在、あるいは喪失」にあると考えています。

そもそも、組織というものは、一人ではできないことを、複数の人たちの力によって成し遂げるために生まれたものです。

しかし、組織はさまざまな人間の集合体であり、考え方や価値観、働く動機もバラバラです。

目的工学では、「目的」自体を「大目的」「小目的」に分け、それらを調整、マネジメントすることで組織全体を一体化させる手法を科学しています。

少し抽象度が高いですが、大目的とは「世界中の人々の幸福」を企業や組織、個人が実現する道筋を見出すことです。
企業の最終目的とは何か?

一読して、これらの指摘はまさにその通りで、新しい観点ではないのですが、非常によくまとまっているという感想を持ちました。

その具体的マネジメント手法はぜひ本書をご覧いただきたいのですが、「企業の最終目的は何か?」というのはすべてのビジネスパーソンが考え続けるべき、究極の問いだと思います。シンプルに、継続して利益を出し続けることだ、という考えももちろん存在します(参考:『ザ・ゴール』)

なぜなら、経営者であれ、従業員であれ(もちろんフリーランスであれ)、企業という組織に関わることなくビジネスを進めていくことはできないからです。

すぐに答えがでるようなものではありませんが、「企業の最終目的とは何か?」という問いを考えるにあたり、本書は自分なりの回答を見つけるためのヒントとなる良書だと思います。

そのほかにも、石門心学、共通善(マイケル・サンデル教授のいう「正義」と同義)、社会起業など、今後の経営やビジネスのキーワードとなる概念が多く紹介されており、経営に携わる方、経営を志すかたにはぜひ手にとって頂きたい一冊です。

最後に諸々調べている中で「企業の最終目的とは何か?」に対するダライ・ラマ14世(チベットの元首)の例え話が面白かったので、紹介させて頂きます。

「ビジネスの役割は収益をあげることだと言うのは、人間の役割は食事や呼吸をすることだと言うのと同じくらい無意味です。

損失を出す会社と同様、食事をとらない人間は死を迎えます。だからといって、人生の目的は食べることだということにはなりません」



▼目次
第1章 利益や売上げは「ビジネスの目的」ではありません
第2章 イノベーションは「よい目的」から生まれてくる
第3章 コラボレーション、コラボレーション、コラボレーション
第4章 「コトづくり」をデザインする
第5章 さまざまな人材をつなげる組織
第6章 「アポロ計画」に目的工学を学ぶ
第7章 目的第一のマネジメント
第8章 目的工学はこうして実践する 総括編


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