2013年10月16日水曜日

アンバサダー・マーケティング(直訳すると大使)

先進企業はアンバサダーで売り上げを伸ばす

2013年10月15日(火)  徳力 基彦
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131010/254441/?ST=print

 「以前より広告が効かなくなった」
 「テレビCMや新聞広告の効果が下がってきている」
 こうした声は、今や珍しくない。実際、インターネットの登場からソーシャルメディアの普及に至るまで、オンライン上の情報量の増加はとどまるところを知らず、従来は視聴者から「情報」として重宝されることも多かった広告が、ノイズとして捉えられることも出てきた。
 技術の進歩やメディアの多様化により、広告が表示される場所も、マスメディアの広告枠やネット広告・スマホ広告だけでなく、電車社内のモニター広告から電車の車体自体、ラッピングバスなど、ありとあらゆる場所が広告に使われるようになってきているが、その分、一つひとつの広告メッセージの到達率や記憶に残る確率が下がってきているのは間違いないだろう。
 そこで、広告の代わりに見込顧客に商品やサービスの魅力を伝える手段として米国で注目され始めてきた手法がある。それが、「アンバサダー・プログラム」や「アドボカシー・プログラム」と呼ばれるような、ファンを軸にしたコミュニケーション活動だ。

一般人のアンバサダーを味方につける

 「アンバサダー」はもともと「大使」という意味の英単語であり、先日の東京オリンピック招致の際にアンバサダーを務めていた滝川クリステル氏や、フェンシングの太田雄貴氏のような有名人による「親善大使」をイメージする人も多いかもしれない。
東京オリンピック招致で注目された「招致アンバサダー」 
 ただ、アンバサダー・プログラムで対象としている「アンバサダー」は、こうした有名人だけではない。従来、滝川クリステル氏のような有名人による「親善大使」的なアンバサダーは、一人で数万人、数十万人に影響を与えることを期待されていた。
『アンバサダー・マーケティング』 
 一方、数十人にしか影響力が無い一般人のファンであっても、そのファンを数千人、数万人単位で組織化することができれば数十万人に影響を与えることができる可能性がある。そんな一般人の影響力の可能性に着目したアプローチとして注目されているのが、「アンバサダー・プログラム」と呼ばれるような新しい取り組みだ。
 今回は、そんな米国の新しいトレンドを紹介している書籍である『アンバサダー・マーケティング』から、いくつかの最新事例をご紹介しよう。

フォードはアンバサダーに数千台のクルマを売ってもらう

 『アンバサダー・マーケティング』で紹介されているコンセプトの軸になっているのは、英語で「アンバサダー(直訳すると大使)」や「アドボケーツ(直訳すると支援者)」と呼ばれるような、熱烈なファンの力を借りることこそが、最強のマーケティングの武器になるということだ。
 『アンバサダー・マーケティング』に登場するケーススタディを紹介しよう。
●ノートン(シマンテックの消費者向けブランド)――アンバサダー・プログラム「ノートン・アドボケーツ」を立ち上げたところ、わずか3カ月でアマゾン・ドット・コムでの商品レビューが倍増し、売上高も200%伸びた。
●ウーマ―IP電話機器で受賞歴もあるエレクトロニクスメーカー。ただ、1億ドルのマーケティング予算を持つ大手ボナージュに対抗するのは難しい。そこでウーマは自社のIPソリューションを推奨し、販売を後押ししてくれる2万人のアンバサダー部隊に協力を要請した。この結果、顧客獲得コストは54%低下し、売り上げのコンバージョン率は33%という驚異的な水準に達した(従来のおよそ15倍)。
――『アンバサダー・マーケティング』序章から
 アンバサダーの事例は、業種を問わない。ここでは、大手自動車会社のフォードと、タコスレストランの具体例を紹介したい。
 自動車会社のフォードは、2010年に「フォード・フィエスタ」を発売したときから、アンバサダー・プログラムを導入して売上を伸ばしている。
 フォードは、真新しい「フォード・フィエスタ」を100人に提供し、コメント、動画、写真をネットに投稿するよう呼びかけた。フォード・フィエスタのアンバサダーが投稿したユーチューブの動画、フリッカーの写真、ツイートなどは数百人の消費者の目に留まり、盛んにシェアされた。このプロモーションは数千台のフィエスタの販売につながったとみられる。
――『アンバサダー・マーケティング』第10章から
現在も継続して実施されているフィエスタのアンバサダー施策。
 さらにフォードは、こうしたアンバサダーであるフォード車オーナーに、テレビ広告キャンペーンにも登場してもらった。テレビを使ってアンバサダーの生メッセージを伝えることで、単なる広告よりも信頼感が高まるのだ。

クーポンを1万人のアンバサダーがシェアして7000人が入会

 ルビオズ・フィッシュ・メキシカングリルという米国タコスレストランのチェーン店は、アンバサダー・プログラムで大きな成果をあげている。このレストランは、アンバサダーの活躍で、お客がひっきりなしに訪れるようになったという。
 ルビオズのアンバサダーがシェアした中で最も人気を集めたものの一つが、無料のタコスがもらえるクーポンだ。このクーポンは、メンバー制度「ルビオズ・ビーチ・クラブ」に参加するともらえる。1万人近いアンバサダーがメール、フェイスブック、ツイッターで友人に招待を送った。(中略)アンバサダーが薦めた結果、合計7373人がビーチクラブに入会した。
――『アンバサダー・マーケティング』第8章から
ルビオズの会員制度「ルビオズ・ビーチ・クラブ」
 ほかにも誤解による炎上の事態が起きたときに、自社のアンバサダーが企業の味方になって批判者と議論してくれたり、誤解を訂正してくれたり、とアンバサダーによる成功事例は類挙に暇がない。

ソーシャルメディアの普及が後押し

 なぜ、米国でこれほど多様なアンバサダーによる成功事例が登場したのだろうか。
 非常に重要なポイントは、ソーシャルメディアの普及により、これまでは軽視されがちだったファンの影響力が大きな変化を遂げているということだ。従来であれば、一般人のクチコミはせいぜい友だち数人に影響を与えるぐらいの影響力だったかもしれない。ただ、現在は一般的なフェイスブックやツイッターユーザーでも平均100人以上はフレンドやフォロワーがいるといわれている。つまり、一人のファンがソーシャルメディアで同様の推奨行為をしてくれると、オンラインでつながっている友人に100人単位で伝播する可能性がある上に、内容によっては100人のそのまた100人に伝播するということが起こりうる。
 さらに、冒頭に書いたようにオンライン上の情報量は爆発的に増え続けており、ほとんどの情報はノイズとして消え去る運命にある。それと同時に、ユーザーの一番近いところにある情報として急速に増えているのが、自分の友だちのクチコミなのだ。
 そこで改めて注目されているのが、企業の熱烈なファンである。ソーシャルメディアによるクチコミという力を手に入れ、見込客に情報を届けるのに一番近いところにいる多数の「アンバサダー」なのである。米国で早くから「アンバサダー」に注目したマーケティングに取り組んでいる企業は、このソーシャルメディアによって強化されたファンのクチコミという無料のマーケティングの武器を上手く活用できていると言えるだろう。
 一方で、日本のソーシャルメディア活用というと、企業自らがフェイスブックページやツイッターアカウントなどを活用して、無料で情報発信できるようになった点が注目されることが多い。ただ、実はソーシャルメディアの登場による本質的な変化は、企業が無料で情報発信できるようになったことではない。本質的な変化は、全てのユーザーのクチコミの影響力が、ソーシャルメディアによって大きく上がった点にあるのだ。
 広告を通じたコミュニケーションから、アンバサダーを通じたコミュニケーションへの変化が、ネットやソーシャルメディアの普及による情報爆発による必然的なパラダイムシフトとして米国で始まっているのだ。
 今後のコラムでは、そうした「アンバサダー」の日本企業への可能性について考えてみたい。
『アンバサダー・マーケティング』
『アンバサダー・マーケティング』
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