2014年2月9日日曜日

ビジョンを駆動力とするデザイン

デザインという古い枠は死んだ!MITメディアラボ副所長・石井裕さん(1)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140128/258908/

石井:でも、これだけモノが溢れている現代において、画期的な技術革新やサービス革新も盛り込まれていないのに、「デザインだけ新しくした製品」を出して、消費を煽る、という消費サイクルそのものがもはや時代遅れです。

「ビジョンを駆動力とするデザイン」とは

石井:そう、未来に対する明確なビジョン(理念)、それが求められるのです。どういう世界を作ろう。どういう未来を作ろう。どうやって皆を幸せにしよう。そのためには何をしよう――そんな未来に対する明確なビジョンをまずは持つ。そのビジョンがあって初めて、本当に新しいもの、本当の新しいデザインが生まれてくる
川島:単に、前のモデルとは違う色を使おう、とか、フォルムをちょっと変えよう、といった表層的なデザインをいじる、という話じゃない、と。
石井:その通りです。デザインについても、今求められるのは、「ビジョンを駆動力とするデザイン」です。逆に言えば、そうでないものはデザインじゃないということです。言い換えれば、未来に対するビジョンを具現化する力、それが「デザイン」です。

川島:単なる「新しさ」や「かっこよさ」のことじゃない、と。
石井:もちろん。結果として新しかったり、かっこよかったりするのは、デザインの機能として重要だけど、根っこでデザインに必要とされるのは、「こんな未来にしたい!」を具体的な形やサービスとして見せる力です。
川島:日本企業が今、元気がないのは、デザインの問題以前に、未来に対してのビジョンが欠落している、ということなんですね。
石井:AppleにしろGoogleにしても、こんな未来をつくりたい、というビジョンをまず経営者が持っているわけでしょう。で、それを具現化するために、製品やサービスのデザインがつくられていく。日本企業は、というと前年同期比の売り上げを伸ばすことにばかり気を取られている会社が多すぎる。つまりビジョンがない。となれば、デザインだってたいしたものが生まれるわけがない。
川島:なるほどなあ。日本人デザイナー自体は世界で活躍している人が沢山いるのに日本企業のデザインがよくならないのは、デザイナーの力の話じゃなくて、企業と経営者のビジョン構築力がない、ってところに原因があったわけですか。
石井:そうです。これだけ情報のスピードと物量が大きくなっている中、強いビジョンだけが生き、光を放つと僕は考えています。
川島従来のマーケティング的な観点から言えば、企業には市場ニーズ、顧客満足度、売れ筋、効果効率が求められてきた。デザインも、以上を達成するための道具として扱われていた。でも、これからのデザインは、そんな目先の話じゃなくて、未来を作ろうというビジョンを体現するものじゃないといけない――。
石井:そうそう。
川島:で、石井先生に質問です。「デザインを駆動させる」ビジョンという言葉を、もう少し具体的に説明していただけますか?
石井:ビジョンという言葉を「高いレベルのコンセプトや戦略」「ガイディングプリンシプル=価値基盤となる考え方」と置き換えてもいいと思います。
川島:というと?

モノではなく、アーキテクチャー

石井:技術というのは必ず陳腐化するし、古びます。パソコンのアプリケーションはどんどん更新されるし、モノ作りの技術は日進月歩です。ということは、技術は「変わる」のが前提です。でも、強固なビジョンというのは、技術の進歩や、時間の変遷に耐え、時代を超えて生き延びます。だからこそ、新しいデザインを生み出す「エンジン」になり得るわけです。
川島:現在の日本企業の大半は、そこまで深く広いレベルでデザインを考えることなく、ごくごく表層的なところを変えようと、あくせくしているということですね?
石井:何度も申し上げているように、目の前にあるモノをデザインする、という時代は、とっくに終わっているのです。いま、日本でもようやく「デザインが大切だ」「デザインが勝負を決める」ということが言われるようになりました。その場合のデザインって、結局のところモノのデザインを良くしよう、ってところでとどまっている。コンピュータの世界で例えていうと、デザインというのが個別のアプリケーションソフトみたいなものとしかとらえられていない。つまりよいデザインとはヒットするソフト、みたいな感じですね。
 でも、僕が言っているビジョンを駆動力とするデザインとは、むしろOSのようなもの。つまりモノじゃなくてアーキテクチャー=構造をどうやって設計するか、ということに近い。
川島:この場合の「アーキテクチャー=構造」とはなんでしょう?
石井:インターネットを介してさまざまな情報がクラウド空間に存在し、それを自由自在にみんなが使っている。新しいアーキテクチャー=構造とは、まさにそれを前提としています。すでに随分前から、僕たちは、情報が凄いスピードで激流のように流れている環境の中に置かれているわけです。そんな「情報水流」の中にいて、そこを泳ぎ切ることに快感を感じるようになっている。ところが、そんな情報環境を念頭に置かず、個別の商品のデザインだけを語る。うまくいくわけないですよね。
川島:確かに、東京も地方も、先進国も途上国も、もはや世界中のあらゆる場が「情報水流」化しています。かつてのように、中心と辺縁といった区分は、ほとんど意味をなさなくなっています。
石井:そうなんです。現代の「情報水流」は常に世界とつながっている。それこそが今の世界のアーキテクチャーなんです。
川島:世界の仕組みがそうなっていることに、日本企業は気づいてこなかったということですか? いや、薄々気づいてはいたけれど、手をこまぬいていた?
石井:両方でしょうね。だから、世界の変化を前提としたデザインをまったく生み出すことができなかった。それどころか、先を行っている企業のコピーさえできていない。そして ICT の世界の制空権を完璧に失ってしまった。
川島:そこまで立ち遅れているんですか?
石井:この世界で空中高く飛んでいるのは、アマゾン、アップル、グーグル、フェイスブック、そういった企業群です。いずれも自分たちが創ろうとする未来に対して、明確なビジョンを持っている。そしてアーキテクチャー=構造そのものをデザインしている。結果としてヒット商品が出ている。KindleにしてもiPhoneにしてもAndroidにしても、あれ、単体の製品じゃないでしょう? アマゾンやアップルやグーグルがデザインしたエコシステム上のフロントエンドの「窓」あるいは「情報蛇口」のようなものです。
川島:ああ、そうか。日本の企業はややもすると、KindleやiPhoneを個別の商品として考えてしまいます。「あれよりもっと多機能な新製品を」「あれよりもうちょっと安い新製品を」「あれにちょっと似た新製品を」。
石井:でも、それって、真似ですらないですよね。アマゾンやアップルやグーグルやフェイスブックがデザインしているのはアーキテクチャーそのものなんだから。かないっこないですよ、いまの日本企業の発想では。

世界を視野に入れたアンテナを立ててこなかった

川島:1970年代から80年代の日本企業の中には世界のリーディングカンパニーになった会社がいくつもありました。それがいつの間にか置き去りにされている。なぜそうなってしまったのでしょうか?
石井:「目がふさがっているから」。つまり、何も見ていないから。世界を視野に入れたアンテナを立ててこなかったのです。デザインについて、見た目が美しいとかラグジュアリーであるとか、そのレベルでしか話をしていない。デザインという概念が大きく変容していることに、真剣に対応してこなかったのです。
川島:ここでいうデザインとは、まさにビジョンだとか経営とかにも置き換えられそうですね。日本から「いいデザイン」が生まれない理由、よく分かりました。デザイン以前に、ビジョンがないのが最大の問題である、と。次回は、石井先生のMITでの活動についてうかがいます。




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