2013年9月12日木曜日

店の位置情報などのデータを活用して新しいサービスを作る3日間のイベント「ハッカローソン2013」

自社データ公開「アイデア求ム」 消費者目線のアプリ続々 
新ビジネス創出にも一役

2013/9/11 7:00
日本経済新聞 電子版
 企業の間で、自社のデータを一般に公開するオープンデータ化の動きが広がっている。自社の売り上げ拡大や商品・サービスの開発につなげるほか、新しいビジネスの創出に役立ててもらおうという狙いがある。複数の企業がデータを持ち寄り、自由に組み合わせて新しいサービスを創り出す取り組みも進む。データのオープン化は、企業や社会にどのような価値をもたらすのか。実例をもとに可能性を探った。
ローソンが開発イベント
 「からあげクン」や「Lチキ」など、ローソンで販売している食品を入力すると、お勧めのレシピを提案してくれるアプリ「クックローソン」が秋にも誕生しそうだ。レシピは同店で販売する食材だけで作れるもので、画面にはローソンのキャラクター「あきこちゃん」も登場する。
 しかし、アプリを提供するのはローソンではない。同社は8月、店の位置情報などのデータを活用して新しいサービスを作る3日間のイベント「ハッカローソン2013」を開催した。活用できるデータは店舗の位置情報データと同社が運用しているソーシャルメディア情報、あきこちゃんの3Dデータや音声データ、そしてダミーの購入履歴データだ。
 イベントは大きく2部で構成された。最初の「アイデアソン」では1日かけて新しいサービスを考えたり話し合ったりし、次の「ハッカソン」では4人程度のグループに分かれ、2日間かけてアプリを作り上げる。参加したのはエンジニアやデザイナーなどどちらも約60人。両方参加した人もいれば、どちらかだけ参加した人もいる。
 最終日には玉塚元一最高執行責任者(COO)や多くの社員を前に16のアイデアが発表された。その中でローソン賞を受賞したのが「クックローソン」を開発した4人組。アプリはこの4人によって提供される予定だ。
 「ハッカローソン」の担当者で広告販促企画部の白井明子マネジャーは今回のイベントの効果について「社内なら提案した時点でつぶされるような企画が、直接トップの耳に届いた」点を挙げる。
「ちょっと手を加えれば商品化可能」
 例えば「ベンジョルノ!」。ローソン各店のトイレの清潔さを消費者が共有するアプリだ。「おでんハンター」は各店のおでんのどのネタが何個残っているか、味の染み具合はどのくらいかがリアルタイムでわかるアプリ。実際にはどのネタが何個、味の染みた状態で用意されているのかを把握するデータがないため「社内なら10年かかっても思いつかない提案」(白井さん)だ。
 IT企業を中心にこうしたイベントを開催する動きは広がっている。新サービスや商品の開発、優秀な人材発掘などが目的だ。今回はコンビニ企業が取り組んだため、参加者からは消費者として日ごろ感じている不満や要望が提案の形になって表れた。
 トイレ情報や味の染みたおでんのネタ情報は、多くの人が抱いているコンビニへのニーズといえる。タイ人の留学生らが提案した「クラウドソーシングの食品データベース」は、ローソンで扱う食品について原材料やアレルゲン情報を多言語で提供するアプリ。訪日外国人の増加と共に今後、ニーズは高まりそうだ。
 「『企画が何個も浮かんだ』といって応募する人もいて、こうしたイベントに初めて参加する人が6割を占めたのが他のハッカソンイベントとの違い。ちょっと手を加えれば商品化できる内容が多かった」と白井マネジャーは振り返る。流通・サービス業のオープンデータ化には、社内の壁を突き破る消費者の企画力も期待できそうだ。
リクルート商品コンペに60社参加
 リクルートホールディングスが主催する「マッシュアップアワード」。企業の公開するデータを使って新しい商品やサービスを開発するコンペだ。7年前にスタートした当初は同社の提供するデータのみで実施していたが徐々に企業数が増加。昨年は約60社が参加し、500近い応募があった。
 今回も約60社が参加。自由にデータを取得し、活用するための「API」と呼ぶ仕様の公開数は250を超える。メディアテクノロジーラボの伴野智樹プランナーは「APIを利活用することで自社の売り上げ拡大や研究開発に役立てたいと考える企業が増えた」と話す。
リクルートHDは複数企業のデータが使えるイベントを全国で開催(東京都中央区)
リクルートHDは複数企業のデータが使えるイベントを全国で開催(東京都中央区)
 アワードへの応募促進を目的に6~8日に開催したハッカソンイベントには約30人が参加。8つのサービスが発表された。例えば「みまもーりお」は電話の情報を活用して一人暮らしの高齢者の安否などを確認するサービス。毎日決まった時間に固定電話に電話をかけ、体調や外出予定などを自動音声で尋ねる。外出予定があると回答した相手には天気情報をもとに「傘を持っていった方が良さそうですよ」などのコメントを添える。
 「みつぎふと」はプレゼントする人とされる人をマッチングするサービス。プレゼントされる人は希望の商品をリストアップしてプレゼントする人に送る。プレゼント選びにあたっては、ヤフーや楽天の商品情報などを活用した。
 「ドライブドー」はドライブ中のイライラを解消するサービスだ。渋滞時にはクイズを出したり、給油の必要が出てきた時には音楽で知らせたりする。優良運転だった際は最後に「エコでナイスなドライブでした」と音声で伝えるなど、安全で快適なドライブを促す。開発にあたってはトヨタIT開発センターの車両情報を活用した。
「自動車メーカーの発想超えた作品を」
 同社は今年から参加。5月以降これまでに実施した3回のアイデアソンでは走行情報をもとにしたゲームの提案や、渋滞を回避するために迂回するとポイントがもらえるサービスなどのアイデアが出た。
 今回のハッカソンではエンジン回転数やドアの開閉など約50の情報を提供。実際にはダミーのデータだが、開発・調査部の藤井政登さんは「何をどのような形で提供することが望ましいのかイベントを通じて確認したい」と説明。「自動車メーカーの発想を超えた作品を期待している」と話す。
 東日本旅客鉄道(JR東日本)や鉄道・バス会社などは8月、公共交通機関のビッグデータ活用を進めるための「公共交通オープンデータ研究会」を設立した。鉄道の運行状況や位置情報などを外部に提供し、一般企業の新サービス開発に役立ててもらう。年内にも試験的にデータ提供を始める予定だ。個人情報の保護などに配慮しつつ、企業の枠を超えたデータ公開が広がることで、新しい市場が創出されそうだ。

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