2013年9月17日火曜日

なぜ住民は動いたのか、黒川温泉のコミュニティーを探る

なぜ住民は動いたのか、黒川温泉のコミュニティーを探る


なぜ住民は動いたのか、黒川温泉のコミュニティーを探る
東京など都市から参加した「第二町民」。「仲間の証」である法被を羽織り、イベント実施の裏方を手伝った
地域が抱える課題に対しては、様々な活性化策が講じられることがある。しかし、すべてがうまくいくわけではない。そもそも地方は、過疎化が進み、空家問題や社会的連帯の喪失など様々な社会課題が複雑に絡み合っている。そのため、一筋縄では課題解決に至らないことが多い。これまでは、こうした課題を行政が解決してくれるというのが、共通の認識となっていた。だが、現代は行政が全部担える時代ではない。このような中で、多様なステークホルダーを巻き込み地域の活性化を図る、熊本県黒川温泉を紹介する。(オルタナS副編集長=池田真隆)



黒川温泉の活性化策には、国内旅行の誘客支援を行うリクルートのじゃらんリサーチセンターも参加した。同センターの三田愛氏は「コミュニティー創りが重要」という。黒川温泉の場合は、親世代と青年部世代の「認識ギャップ」が足かせとなっていた。同地は1980年代に親世代が作った温泉地で、彼らには生々しい成功体験が残っている。しかし、青年部世代はそうではない。そのため、課題に対する意識が異なり、理想像も違った。

有効な活性化策を推進するには、課題に対する意識を揃え、理想と課題を共有するコミュニティーを形成する事。理想は、自分たちで考え、自走していける地域創りだ。

三田氏は、こうしたコミュニティーの土壌を形成するためには、二つのことが必要と話す。一つは、ステークホルダーによって異なる地域の課題感を揃え、「目的を揃える事」、もう一つは同一のコミュニティーで固まらずに多様なステークホルダーを巻き込んだ「場を持つ事」だ。

■世代間ごとの課題を明確に

黒川温泉の場合、当初は親世代の旅館経営者だけで議論をしていた。しかしそれでは、地域の未来に対する「自分ごと化」をすることが、特に若い世代にとって難しくなる。そこで、「地域全体が持続的に発展していくために」という文脈で地域の課題をとらえ直したという。

三田氏は最初に、旅館経営者に対して「地域力診断」というフレームワークを用いて、世代間のギャップを浮き彫りにしようと試みた。「地域力診断」とは、アンケート調査によって地域の「強み」と「課題」を可視化し、 取り組むべき課題を明確にするものだ。すると、親世代である「黒川温泉観光旅館協同組合」の回答と、「黒川温泉青年部」の現状認識の違いが明らかになった。つまり、将来のビジョンやありたい姿といった点で、認識の違いが浮き彫りになったのである。

こうした認識のギャップを「見える化」する事により、「特に若い世代の旅館経営者の方々が現状を変えようという意識を持つようになった」(三田氏)と言う。

課題が見えると、青年部のメンバー20名と三田氏は2012年8月~2013年4月までに計9回におよぶ未来の黒川に関するセッションを実施していった。

実施したセッションでは都市部に遠征して、地元の声だけではなく、未来のステークホルダーと呼ぶゲストを巻き込む事でアイデアを深めていった。結果、「いち黒川」という、黒川温泉全体で提供するサービスコンセプトが共有されることになり、地元総出、かつ都市在住者も『第二町民』として地元民と共に準備から打ち上げまで一日スタッフとして参加する「黒川温泉 湯のはた花見会」といったイベントなど、ユニークなサービスが続々と打ち出された。

さらに現在では、地域住民の中から有志が集まり、黒川温泉のまちづくりを担うNPO法人を設立する動きも起きている。

「今回のプロジェクトを経て、黒川のみなさんは自走をし始めています。他地域の事例を機械的にあてはめたり、外部のコンサルタント等が地域の課題に対して答えを出すといったアプローチをおこなうことは、一時的には良くなっても、長い目でみて地域のためにならないと思っています。地域の芽吹いた変わる力に伴走して、地域の火種に火をつけながら、自走を促していく。それが生きている地域が持続的に成功していくカギだと考えています」(三田氏)

■変わりたい地域の力に

なぜリクルートが黒川温泉のコミュニティーづくりに参画しているのか。三田氏が所属するじゃらんリサーチセンターは観光産業と地域経済の発展への寄与を目的に2005年に誕生した。地域自体の魅力を磨き続けなければ、地域全体の集客力が低下し、街の店舗や宿泊への送客も減ってしまう。地域の魅力アップのために、新ご当地グルメの開発や、19歳対象のスノーリゾート集客施策「雪マジ!19」、農村の観光連携事業など、黒川温泉の取組以外にも地域活性化の取組を数多く行っている。

人と地域が元気に、出会いに満ちた世の中になるように。地域の人が自ら商品を作っていける流れを創りたい。黒川のようなワクワク自走するコミュニティーが増えていく事で地域が、ひいては日本がもっと元気になるのではないか、と思っています

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